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第10回:マーケティング組織のインハウス化

  • 執筆者の写真: マーケティング事業 統括 I
    マーケティング事業 統括 I
  • 5月12日
  • 読了時間: 10分

~内製化を進めるメリットと進め方~

はじめに

これまでの連載では、デジタルマーケティングの全体像やKPI設定、計測環境の整備、メディアアロケーション、代理店の選び方など、多角的にノウハウを共有してきました。最終回となる本記事では、マーケティング組織のインハウス化に焦点を当てます。

「なぜ今、インハウス化が注目されるのか?」「代理店に任せっぱなしから卒業したいが、組織や人材をどう確保すればいいのか?」「ツール導入や運用体制はどのように進めるか? 代理店とのハイブリッドは可能か?」

このような疑問を抱えている企業は増えています。デジタル広告の運用やSNSマーケティングを自社内で行うことで、ノウハウやスピード感、コスト管理のメリットが得られる反面、人材育成やツール導入、組織づくりに苦労するのも事実。本稿では、インハウス化のメリット・デメリットから始まり、実際に進めるステップや、代理店活用と組み合わせたハイブリッド戦略などを解説していきます。

デジタルマーケティングを競争力にしたい企業にとって、インハウス化は一度は検討すべき選択肢です。ぜひ最後までお読みいただき、自社の状況と照らし合わせながら最適な道を見出してください。


第1章:なぜ今、インハウス化が注目されるのか?

1-1. デジタルマーケの重要性とスピード要求

デジタルマーケティングがビジネス成果に直結する時代、外部代理店やコンサルに丸投げしていては、日々変化する市場やアルゴリズムに追随しづらいという課題があります。特に競合が激しい業界では、クリエイティブや広告運用を自社内で素早くPDCAを回せたほうが優位に立てる場合が多いのです。

1-2. ノウハウ蓄積とコスト削減

代理店に支払う手数料は大抵、広告費の一定割合(10~20%)や月額固定+成果報酬など。広告予算が大きくなるほど支払い総額は膨らむため、長期的にはインハウス化したほうがコストを抑えられるケースが出てきます。さらに、内製チームを育成すればノウハウが社内に残り、ノウハウ流出リスクを減らせるのも大きな利点です。

1-3. 社内連携とブランド理解

自社の製品やブランドコンセプトを深く理解したメンバーが広告運用を行えば、ブランディングや商品魅力を的確に反映したクリエイティブを素早く作れるメリットがあります。また、SNS運用と広告運用の連携、営業・開発との連携など、社内部署間のコラボレーションがスムーズになりやすい点もインハウス化の魅力です。


第2章:インハウス化のメリットとデメリット

2-1. メリット

  1. コスト効率向上

    • 代理店マージンを削減し、同じ予算でも広告費に回せる比率が上がる。

  2. ノウハウ蓄積

    • 運用データやクリエイティブ検証の知見が社内に蓄積され、継続的に改善できる。

  3. 迅速な施策実行

    • 広告文面やターゲティングを変えたい際に、社内調整のみで完結。時間ロスが少ない。

  4. ブランド理解の深さ

    • 自社製品の特性や顧客インサイトを踏まえた運用が可能、クリエイティブの調整もしやすい。

2-2. デメリット

  1. 人材確保と育成が大変

    • 経験豊富な運用担当者の給与水準が高い、そもそも人材市場に限りがある。

    • 新人を育てるにしても時間がかかる。

  2. 責任とリスクが社内に集中

    • 成果が出なかった場合も、全て社内の責任となる。気軽に「代理店のせい」にできない。

  3. ツールやシステム導入コスト

    • MAツールや分析ツールなどを自社で導入・運用するための費用や知識が必要。

  4. 組織体制やキャリアパス整備

    • 運用担当が孤立しないよう、キャリア形成やモチベーション管理が必要。優秀な人材が流出するリスクもある。


第3章:インハウス化を進めるステップ

実際にインハウス化を行う場合、どのように進めれば良いのでしょうか。ここでは大まかな6つのステップを示します。

3-1. 現状分析と目標設定

  • 現状分析

    • 広告費や代理店手数料の現状、広告運用の成果指標(CPA、ROASなど)、社内リソースの確認

  • 目標設定

    • インハウス化によるコスト削減幅、ノウハウの蓄積度合い、運用スピード改善、売上貢献など

    • どのチャネル(リスティング、SNS、ディスプレイ、動画広告など)を優先的に内製化するかを決める

3-2. チャネル・スコープの絞り込み

一気に全チャネルを内製化すると、社内リソースが足りず混乱に陥るリスクがあります。まずは検索広告(リスティング)から始めるなど、比較的分かりやすい領域で試してみる方法がおすすめ。

  • 例:

    • 第一段階:リスティング広告のみインハウス化

    • 第二段階:SNS広告やディスプレイ広告に拡大

    • 第三段階:クリエイティブやLP制作、SEO、MA運用などを徐々に取り込む

3-3. 人材確保と育成計画

インハウス化の最大のハードルは人材確保です。運用経験者を採用するか、既存社員を研修するか、あるいは代理店から人材を引き抜くなど様々な方法があります。

  • 採用

    • デジタル広告運用経験者の市場価値が上がっており、給与相場が高い

    • 社内カルチャーとの相性を見極める

  • 育成

    • 既存社員に広告運用や分析のスキルを付与する

    • 代理店と併走し、運用プロセスを学ぶOJT

  • 部門構成

    • 1人の運用担当が全チャネルを見るのか、チャネルごとに担当を分けるのか

    • クリエイティブ担当やデータ分析担当を置くか

3-4. ツール導入とシステム整備

  • 広告管理ツール

    • Google AdsやFacebook Adsはそれぞれ公式管理画面があるが、複数チャネルをまとめて管理できるツールも存在

  • MA(マーケティングオートメーション)ツールやCRM

    • インハウスで顧客データを連携する場合、分析や施策実行がスムーズ

  • ダッシュボード・レポート自動化

    • Data Studio(Looker Studio)やBIツールを使い、経営層やチーム向けにレポート配信

    • スクリプトやAPIで広告データを取り込み、更新の手間を省く

3-5. 運用プロセスと権限管理

代理店の代わりに社内で運用するということは、アカウント管理や入札設定、クリエイティブABテスト、レポート作成などのタスクが社内に降りかかります。

  • 週次ミーティングでKPI確認、改善タスクの優先度付け

  • 広告アカウントの権限を運用担当だけでなく、上長や経営層も閲覧できるように設定

  • 支払い処理や予算管理をどう行うか。経理部門との連携フローも整備

3-6. 検証と拡大

最初は小さなチャネルや小額予算で始め、結果を見つつ社内オペレーションを固める。上手くいけば、予算増や他チャネルへの拡大を進める。もし想定より成果が出ない場合、代理店に再度一部を委託するなど柔軟に戦略を修正する。


第4章:ハイブリッド戦略—代理店とインハウスの融合

インハウス化を目指していても、完全に代理店を切り離すのが最適とは限りません。ハイブリッド戦略をとる企業も多いです。

4-1. 例:メディア運用はインハウス、クリエイティブ制作は代理店

  • 社内に広告運用担当を置き、入札やキャンペーン管理を自ら行う

  • クリエイティブ(バナー、動画、LPなど)の制作や大きな戦略立案はクリエイティブ代理店や総合代理店と連携

  • 担当者が社内にいるため、細かい調整やキャンペーンのABテストをスピーディーに実行できる

4-2. 例:コアチャネルはインハウス、サブチャネルは代理店

  • 主要チャネル(リスティング広告、SNS広告など)は自社で完全運用

  • 新規に試すチャンネル(TikTok Ads、ネイティブ広告など)は、試験的に代理店に任せる

  • 運用成果が見えてきたら、ノウハウを移管してインハウス化範囲を拡大する

4-3. メリットと注意点

メリット

  • 全チャネルを自社で賄う負担を減らしつつ、主要施策のコントロールは社内で行える

  • 代理店との学習フェーズを経ることで、ゆるやかにインハウスを広げる

注意点

  • 代理店が担当するサブチャネルのノウハウが社内に溜まりにくい

  • 調整コスト増:社内運用チームと代理店チーム間でKPIやレポート形式を擦り合わせる必要


第5章:インハウス化の成功事例と失敗例

5-1. 成功事例:アパレルEC企業

あるアパレルEC企業は、長年代理店に運用を任せていたが、広告費の膨張と担当営業の異動で成果が安定しなくなった。そこで広告運用担当を2名社内で雇用し、最初はリスティング広告をインハウス化。

  • 成果

    • 広告配信の意思決定が早くなり、季節キャンペーンをリアルタイムに調整

    • 独自のプロモーションと連動し、ROAS向上。年間広告費の10%ほど削減

  • ポイント

    • 担当者が社内のMD(商品企画)チームや在庫管理チームと密に連絡し、売れ筋や在庫状況に合わせて広告予算を日次で調整

5-2. 失敗例:SaaS企業の突貫インハウス化

SaaS企業が代理店手数料を節約しようと、短期間で全チャネルを引き継ごうとした結果、

  • 問題

    • 運用担当が広告プラットフォームごとの設定やレポート作成に時間を取られ、効果的なABテストやクリエイティブ刷新ができず

    • ROIが悪化し、結果的に代理店に再度依頼する羽目になった

  • 教訓

    • 段階的に担当領域を増やし、社内人材のスキル向上を図るべき

    • トレーニング期間や外部コンサルのサポートを活用すればよかった


第6章:インハウス化の将来展望とまとめ

6-1. テクノロジー進化でインハウス化が進みやすい

近年、広告運用を自動化するAI機能(GoogleのPMaxなど)が登場し、ある程度の運用は機械学習アルゴリズムに任せる動きが進んでいます。これにより、広告担当が行うべき細かな入札調整が不要になり、クリエイティブと戦略面に集中できる環境が整いつつあります。これはインハウス化を加速する要因となるでしょう。

6-2. 「外部パートナーなしでいい」わけではない

完全内製で成功する企業も増えていますが、専門性の高い領域(SEO、動画広告、海外展開など)や、クリエイティブ領域で外部の知見を活用するハイブリッド型が主流になると予想されます。

  • 大規模キャンペーンやオムニチャネル戦略には、総合代理店や特化型代理店との連携が不可欠

  • インハウスチームが代理店と対等なパートナーシップを築くことで、双方の強みを活かす

6-3. 連載の総括:組織づくりがデジタルマーケ成功の鍵

本連載で触れた各テーマ(KPI設定、計測環境、ダッシュボード、メディアアロケーション、代理店活用など)が実際に力を発揮するには、組織づくりが最終的な鍵となります。インハウス化はまさに組織変革の一環であり、社内の理解や責任範囲の明確化、人材の育成・確保が欠かせません。


結び

マーケティング組織のインハウス化は、デジタル広告やSNS運用など、これまで代理店や外部コンサルに任せていた領域を自社で担うことで、コスト効率やスピード、ノウハウ蓄積を得る取り組みです。一方で、人材確保やツール導入、マネジメントの難しさなど越えるべきハードルも多いのが現実です。

  • インハウス化のメリット:コスト削減、迅速なPDCA、ノウハウ蓄積、社内連携の向上

  • デメリットや課題:人材不足、リスクが社内集中、ツール導入や育成コスト

  • 進め方ステップ:目標設定→範囲決定→人材確保→ツール導入→運用プロセス整備→拡大

  • ハイブリッド戦略:代理店と協業しつつ、主要チャネルは内製化、あるいは部分的に外部依頼


本連載で取り上げた全10回の内容――「デジタルマーケティングの全体像」「KPI設定」「データ計測環境」「ダッシュボード構築」「メディア配分」「B2B / B2Cリード獲得」「EC向け施策」「代理店の選び方」「インハウス化」――これらを俯瞰しながら、自社に最適なマーケティング体制を構築していただければと思います。


企業が独自の競争力を高めるには、広告運用やSNSマーケティングを「ブラックボックス」にせず、経営戦略と一体化してコントロールしていく姿勢が求められます。インハウス化はその大きな一歩であり、成功すれば組織全体のデジタルリテラシーが向上し、ビジネス成長を加速させるエンジンとなるでしょう。


これで本連載は最終回となりますが、デジタルマーケティングには日々新しいツールや手法が生まれ、競争環境も変化し続けています。ぜひここで紹介した考え方を基盤に、社内外のリソースをうまく活用しつつ、常に学びをアップデートしていってください。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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