第7回:【EC編】ビジネスモデル別・ROAS最大化のためのメディア選定&KPI設定
- マーケティング事業 統括 I
- 4月21日
- 読了時間: 12分
はじめに
前回(第6回)の記事では、B2Bビジネスに特化したデジタル広告のメディア選定やKPI設定、ターゲティング実践などを深掘りしてきました。B2Bならではの長い商談サイクルやリード獲得のポイント、LinkedIn広告やホワイトペーパー施策などをご紹介しましたが、今回(第7回)は打って変わってEC(電子商取引)に焦点を当てます。
ECサイト(B2C)は、B2Bとはまったく異なるビジネスモデルです。
ユーザーがサイト上で直接購入を完了し、売上につながるまでの過程が比較的短い
「広告費 → 売上」の因果関係が分かりやすく、ROAS(広告費に対する売上)が主要な評価指標となりやすい
カート放棄率対策やLTV(顧客生涯価値)向上施策など、EC特有のポイントが多い
本記事では、ECサイト特有の売上指標やROAS管理を出発点に、Googleショッピング広告やリターゲティングなどの効果的手法、そしてカート放棄対策やLTVを意識した広告施策について、具体的な方法を解説していきます。読者の皆さまがECサイトを運営している、または運営支援を検討している状況で、「どう広告を組み立てれば売上や利益が最大化するのか?」という疑問にお応えできる内容となっています。ぜひ最後までお読みいただき、日々のEC運用に役立ててください。
第1章:ECサイトならではの指標とKPI設計
1-1. B2Bとの違いを押さえる
B2CのECサイトでは、ユーザーが商品ページを閲覧 → カートに入れる → 購入完了というシンプルなプロセスが基本です。商談や稟議が不要なため、広告を見てすぐに購入まで進む可能性もある一方、購買単価が低めで競合サイトも多いという特徴があり、価格比較やレビュー評価などで離脱するケースも多々あります。
リード育成よりも、即時コンバージョンに重点が置かれやすい
KPI(例):売上、購入件数、CVR、ROAS、AOV(平均注文額)、リピート率など
1-2. ECでよく使われるKPI一覧
CVR(Conversion Rate)
ECにおけるコンバージョンは「購入」
CVR = 購入件数 / 訪問数 × 100(%)
AOV(Average Order Value)/ 客単価
1件あたりの平均購入金額(売上 / 購入件数)
単価アップやアップセル施策でAOVを上げると、同じアクセス数でも売上が増える
ROAS(Return On Ad Spend)
広告費に対する売上の比率。ECでは最重要指標のひとつ。
例:広告費10万円 → 売上30万円ならROASは300%
LTV(顧客生涯価値)
リピート購入が見込める商材では、AOV×リピート回数で算出するケースも
広告費を1回の購入で回収できなくても、長期的な利益でペイできる場合がある
カート放棄率
商品をカートに入れたが購入に至らなかった率
カートステップを最適化したり、リターゲティングメールを送ったりして対策
リピート率(既存顧客比率)
新規顧客獲得に頼りすぎるとCPAが高騰する。リピーター育成が収益安定のカギ
これらの指標をどう設定し、どの指標を上げるために広告を最適化するかがEC広告運用の要となります。
第2章:ROAS(広告費用対効果)を高める基本戦略
2-1. ROASの計算と注意点
ROASの算出式はシンプルです。
ROAS (%)=広告経由の売上広告費×100\text{ROAS (\%)} = \frac{\text{広告経由の売上}}{\text{広告費}} \times 100ROAS (%)=広告費広告経由の売上×100
例:広告費10万円で広告経由売上が40万円ならROASは400%。ただし、ECサイトでは商品原価・人件費・物流費などが別にかかるため、最終的な利益率(ROI)と混同しないよう注意が必要です。あくまで広告費に対する売上ベースの指標です。
高単価商品ならROASが比較的上げやすい
低単価&高頻度購入の商品群なら、LTV視点で広告費を許容し、長期的に回収するアプローチが必要
認知拡大や新規顧客獲得のフェーズでは、短期ROASだけを見ると赤字になりがちだが、将来的にリピートで回収する計画を立てる
2-2. 広告施策別に見るROASの位置づけ
リスティング広告(検索広告)
ユーザーの購買意欲が高いため、CVRやROASも高くなる傾向。
ただし、競合が多いジャンルではCPCが上がり、ROASが下がる場合もある。
Googleショッピング広告
商品画像と価格を直接表示して、ユーザーが比較検討しやすい。
購買意欲の高い層が流入しやすく、ECでは要注目の広告形態。
SNS広告
クリック単価は比較的安いが、ユーザーの購買意欲が低い段階での接触が多く、CVRはやや低め。
クリエイティブを工夫し、興味を喚起できればROASを引き上げられる。
ディスプレイ・リターゲティング
リターゲティング広告は既存訪問者やカート放棄者に再アプローチするため、CVRが高まる傾向がある。
新規顧客開拓向けのディスプレイはCTRが低くROASも低いが、認知獲得効果も考慮する必要がある。
第3章:Googleショッピング広告の活用ポイント
ECサイトにおいて、Googleショッピング広告は非常に高いCVRやROASを得られるケースが少なくありません。ユーザーが検索結果の上部に商品画像や価格、ショップ名を一覧で見られるため、購入意欲の高い層が直接商品ページへ流入するのです。
3-1. ショッピング広告の基礎設定
Merchant Centerへの登録
商品フィード(タイトル、画像、価格、在庫状況など)を作成し、Google Merchant Centerにアップロード
価格や在庫のアップデートを自動化する仕組みを構築する
Google Adsと連携
Merchant CenterとGoogle Adsアカウントをリンク
ショッピングキャンペーンを作成し、商品をどのようにグルーピングするか検討する
商品タイトル・画像の最適化
ユーザーが検索するキーワードを商品タイトルに盛り込み、画像も見やすい角度で高解像度
価格や在庫が実際と乖離しないよう、定期的にフィードを更新
3-2. 勝つための施策
商品属性ごとのキャンペーン分割
高単価商品と低単価商品でCPC上限や目標ROASを変える
在庫数や利益率が違う商品カテゴリを分けて運用
価格戦略
Googleショッピング上では競合商品と並んで比較されるため、価格の優位性があるとクリックが増える
価格が高い分品質や機能に強みがあるなら、商品タイトルや説明文で明確にアピール
レビューや評価表示
レビューや星評価が表示されるとCTR・CVRが高まる
顧客レビューを積極的に集め、Microdata等で構造化する
3-3. シマネ(Smart Shopping)からPMax(Performance Max)への進化
Googleでは、従来のSmart Shoppingキャンペーンを統合して、Performance Max(PMax)キャンペーンに移行しています。PMaxは機械学習で複数のネットワーク(検索、ディスプレイ、YouTube、Gmailなど)を横断し、コンバージョン最適化を行うタイプのキャンペーンです。
メリット:
自動で広告掲載場所やクリエイティブを調整し、最大限のコンバージョンを狙う
ショッピング広告も含めて一元管理できる
デメリット:
広告掲載場所の可視性や細かい調整がしにくい
ユーザーによってはPMaxの成果が見えづらいと感じる
広告主としては、PMaxがどのように配信を行っているか把握しづらい一方で、機械学習の恩恵で比較的高いROASを得られるケースも多いです。事前に商品分類やフィード情報をしっかり整備しておくと、PMaxのアルゴリズムがうまく働いてくれる可能性が高まります。
第4章:リターゲティングとカート放棄対策
4-1. リターゲティング広告
ECサイトにおいて、訪問者のうち数%しか初回訪問で購入に至らないといわれます。残りの大半を「惜しい離脱」として放置するのは非常にもったいない。そこでリターゲティング広告が登場します。
閲覧した商品をバナーで再提示し、購入を促す
セグメントを細分化し、カートに商品を入れたが買わなかった層に対しては、割引クーポンや在庫限りの訴求を行う
Googleディスプレイネットワーク(GDN)やSNSなど複数チャネルにリターゲティングをかける
カート放棄ユーザーや一定時間サイトを閲覧して離脱したユーザーは、購入意欲が高まっている可能性が高いので、リターゲティングのROI/ROASが高くなる傾向があります。
4-2. カート放棄対策(メールやポップアップ)
放棄後メール:
ユーザーがカートに商品を入れて離脱した後、一定時間以内に「まだ検討中ですか?」とメールを送る
クーポンや特典を提示して再訪を促す
ECプラットフォームやMAツールで自動化可能
ポップアップ:
離脱意向が検知されたとき(マウスがウィンドウ閉じようとするなど)、特別オファーのポップアップを表示
ユーザー体験を損なわない程度に設計が必要
これらの施策は広告ではありませんが、広告と連動したリターゲティングメールなどを使うことで、離脱者を再度サイトに呼び戻す効果を高められます。カート放棄率が下がれば、同じ広告費でCVを増やせるため、結果的にROASの向上に繋がるでしょう。
第5章:LTV(顧客生涯価値)視点での広告施策
ECの場合、一度購入したユーザーがリピート購入することで大きな利益を生み出すケースが多いです。リピート率が高まれば、広告に頼らずに売上が上がるため、中長期的なROI/ROASが飛躍的に改善します。
5-1. LTV算出と広告運用の組み合わせ
LTV(Lifetime Value)の計算例:
平均客単価 5,000円 / 1回
平均購入回数 3回(2年間)
粗利率 50%
→ LTV = (5,000円 × 3回) × 50% = 7,500円(2年間の粗利益)
広告費許容度:
1人あたり7,500円の粗利益を見込めるなら、たとえばCPAを3,000円まで許容しても損益分岐が取れる。
短期ROASが100%を下回っていても、リピート購入で最終的にプラスになる可能性がある。
5-2. リピーター施策
顧客分析とセグメント
購入回数や購入周期に合わせたメールや広告配信を行い、再購入を促す。
RFM分析(Recency, Frequency, Monetary)を活用する。
会員プログラムやポイント付与
ロイヤル顧客になるほど特典が増える仕組みを設計し、LTVを上げる。
メール + リターゲティング広告
購入後1~2週間や1ヶ月後に関連商品を紹介したり、消耗品なら買い替え時期に再アプローチする。
5-3. 「新規獲得広告」と「リピーター促進広告」のバランス
新規獲得重視:
競合が多いカテゴリだとCPAが上がりやすいが、新規を取り込むことで市場シェア拡大が狙える。
既存顧客重視:
リピーター施策は広告費が少なく済むが、市場拡大のスピードは落ちる場合も。
最適解は企業の成長戦略や商品ポートフォリオ、予算規模によって変わります。大抵は新規:既存=7:3、または5:5などバランスを取りつつ、施策を組み合わせてROI/ROASを高めるアプローチが一般的です。
第6章:実践シミュレーション
ここでは、架空のECサイトを例に、広告予算をどのように配分するかの簡単なシミュレーションを示します。
ケース:健康食品ECサイト
前提:
平均客単価:5,000円
粗利率:60%
リピート率:30%(2回目以降も同じ商品を買う)
月間広告予算:100万円
目標ROAS:300%(=広告費100万円で売上300万円)
ステップ1:広告チャネル別想定
リスティング広告(キーワード:健康サプリ系)
予算:30万円 → CPC:150円 → 2,000クリック → CVR2.5% → CV50件 → 売上25万円 → ROAS 83%
想定よりROASが低いが、CVしたユーザーのリピートやアップセルが見込めればLTVで回収可能
Googleショッピング広告(商品リスト)
予算:20万円 → CPC:100円 → 2,000クリック → CVR3% → CV60件 → 売上30万円 → ROAS 150%
Facebook/Instagram広告(フィード広告)
予算:20万円 → CPC:80円 → 2,500クリック → CVR2% → CV50件 → 売上25万円 → ROAS 125%
ディスプレイ・リターゲティング
予算:20万円 → CPAが1,500円 → CV133件 → 売上66.5万円 → ROAS 332.5%
過去訪問者やカート放棄者へのアプローチで高効率を狙う
その他(Yahoo!リスティング、記事広告など)
予算:10万円 → CV数や売上は様子見・テスト的運用
ステップ2:合計売上試算
リスティング:売上25万
ショッピング広告:30万
Facebook広告:25万
リターゲティング:66.5万
その他:10万円予算→ざっくり売上15万
→ 合計売上=161.5万 → ROAS=161.5%
一見、目標の300%に届かないが、リピート購入を考慮すると実質の売上が増える可能性がある。たとえば初回CV50件が翌月リピートした場合、追加売上が出るので実際のROASは上昇する。ここでLTV視点を導入すれば、「初回で赤字でも2回目のリピートで黒字転換できる」戦略が成り立つ。
第7章:よくある課題と解決策
7-1. 広告費高騰と競合激化
EC市場ではカテゴリーによって競合が激増し、CPCが年々上がる傾向が見られます。
対策:
ロングテールキーワードやショッピング広告の最適化でニッチを狙う
クリエイティブABテストでCTRやCVRを改善し、同じCPCでもより多くのコンバージョンを獲得
リターゲティングやSNS広告といったコスト効率の良いチャネルを併用
7-2. LTVを現場が理解していない
経営層が「長期的に回収できる」と考えていても、運用担当者は「短期のROASが低いと怒られるのでは」と萎縮するケースがある。
対策:
経営側と運用側でLTV試算を共有し、「初回CPA〇〇円までは許容範囲」と明示的に設定
ダッシュボードで新規とリピーター売上を分けて可視化し、長期視点を保つ
7-3. カート放棄やリピート対策が不十分
広告で集客しても、サイト内の離脱が多く、カート放棄率が高いとROASが下がる。
対策:
カートUI/UXを見直し、入力ステップやフォーム項目を最小限に
クロスセルやアップセルの導線を工夫しつつ、煩わしさを減らす
放棄後メール、クーポン発行など、離脱者再アプローチを自動化
第8章:まとめと次回予告
ここまで、EC特有の指標やROAS管理、Googleショッピング広告やリターゲティングなどの効果的手法を中心に解説しました。ECビジネスにおけるデジタル広告は、以下のポイントを押さえると成功確率が高まります。
売上とROASだけでなく、LTVやリピート率を考慮する
特にサブスク型や消耗品リピートでは初回獲得コストをどう捉えるかが肝。
Googleショッピング広告やPMaxを活用
商品フィードの整備、価格や在庫更新の自動化、レビュー評価の表示などが鍵。
リターゲティング+カート放棄対策
初回訪問で買わなくても再度アプローチし、CVRを上げる。
カートUI/UX、フォーム最適化でCVR改善
獲得単価(CPA)が大幅に下がり、ROASが向上。
メディアアロケーションを定期的に見直す
競合状況や季節要因でCPCが変化するため、週次や月次のPDCAが必要。
次回(第8回)は、【B2Cリード獲得編】ビジネスモデル別・メディア運用とターゲティングの最適化をテーマに、ECではなくリード獲得型のB2Cビジネス(不動産、保険、教育など)に焦点を当てます。BtoBのようなリード獲得でもなく、ECのようにその場で購入完了するわけでもない――そんなB2Cの特殊なケースで、どのように広告やSNSを運用し、KPIを設定すればよいかを具体的にお伝えする予定ですので、ぜひご期待ください。
おわりに
ECサイト向けのデジタル広告戦略は、ROI/ROASを中心に考えることで、予算配分や施策の成否を定量的に判断しやすいという利点があります。しかし、実際に運用してみると、カート放棄率やリピート率、競合状況など、多くの要素がROASに影響を与え、単純な“金額比較”だけでは見えにくい部分も少なくありません。
本記事で紹介したように、Googleショッピング広告やリターゲティングの最適化、LTV視点での施策、カートUI/UX改善など、ECならではの手法を組み合わせながら、売上拡大と利益率アップの両立を目指してください。こまめなPDCAとダッシュボードでのモニタリング、組織内外との連携が整えば、限られた広告費でも最大限の効果を引き出せるはずです。
次回(第8回)は「B2Cリード獲得型ビジネス」を特集します。ECのようにその場で購入完了しない商品・サービス(不動産や保険、教育など)において、リード(見込み客)を効果的に獲得するための広告運用やターゲティングのポイントを詳説します。ECとはまた違うKPI設定やステップが必要になりますので、興味のある方はぜひご確認ください。
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