第1回:デジタルマーケティングの全体像を掴む
- マーケティング事業 統括 I
- 3月10日
- 読了時間: 11分
~成功に必要な要素とステップ~
はじめに
デジタル技術がビジネス全体を揺るがすほどの影響力を持つようになって久しい昨今。マーケティングの世界も例外ではなく、オンライン広告やSNS、検索エンジン、マーケティングオートメーション(MA)など、多彩な手法が次々と登場しています。本連載では、これからデジタルマーケティングで成果を出したい、あるいは既に取り組んでいるが思うように成果が出せない――という方々に向け、実務で活かせるノウハウやフレームワークを可能な限り詳細にご紹介していきたいと思います。
第1回目となる本記事では、まずデジタルマーケティング全体の概要と主要な手法を整理するとともに、成功させるために押さえるべきポイントを解説します。広告/SEO/SNS/MAなど、それぞれ個別に学んでいる方は多いかもしれませんが、全体像を俯瞰して把握することが、実は大きな成果を生むためのカギになるのです。ぜひ最後までお付き合いください。
第1章:デジタルマーケティングとは何か
1-1. デジタルマーケティングの定義
デジタルマーケティング(Digital Marketing)とは、オンライン上のデジタルメディアやデバイスを活用して、顧客との接点を創出・育成し、ビジネス成果を上げるためのマーケティング手法全般を指します。具体的には、次のような要素を含みます。
広告(リスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告など)
SEO(検索エンジン最適化)
SNS活用(Facebook、Instagram、Twitter、TikTokなど)
メールマーケティング
マーケティングオートメーション(MAツール)
コンテンツマーケティング(ブログ、ホワイトペーパーなど)
Webサイト/LP(ランディングページ)の最適化
データ分析(アクセス解析、BIなど)
これらを個別に行うことももちろん大切ですが、全体を連動させ、ユーザーと継続的にコミュニケーションを取ることで、はじめて大きな効果が期待できます。
1-2. 伝統的マーケティングとの違い
従来のマーケティング(マスマーケティング)の多くは、テレビCMや新聞・雑誌など、いわゆる“マスメディア”を中心に展開されてきました。それに対してデジタルマーケティングは、オンラインでのユーザー行動データを活用し、1人ひとりに合わせたアプローチができるのが最大の特長です。
定量的な効果測定が容易
広告のインプレッション数、クリック数、コンバージョン数、売上金額など、オンラインであればほぼリアルタイムに追跡できます。
ターゲット精度の高さ
SNS広告やリスティング広告では、ユーザー属性や興味関心、検索キーワードなどをもとに、関心の高い層にだけピンポイントでアプローチできます。
コミュニケーションの双方向性
SNSではユーザーから直接コメントやフィードバックを受けたり、メールマーケティングでは特定の行動(リンククリック、開封)に応じたステップを変えたりできるので、顧客との関係構築がしやすい。
こうした特長により、「狙ったユーザーに、最適なメッセージを、最適なタイミングで届ける」ことが可能になります。しかし、そのぶんデータ計測や分析、各種ツールの活用、綿密な戦略設計が求められるため、デジタルマーケティングを成功させるには幅広い知識とスキルが必要とされます。
第2章:主要な手法をざっくり整理しよう
デジタルマーケティングには実に多くの手法がありますが、ここでは代表的なものを広告/SEO/SNS/MAツールの4つに分けて解説します。もちろんコンテンツマーケティングやメールマーケティングなど他にも重要な施策は多いのですが、まずは全体像をつかむうえで、この4分類が理解の取っ掛かりになりやすいでしょう。
2-1. 広告(リスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告など)
リスティング広告
ユーザーが検索エンジン(Google、Yahoo!など)で特定のキーワードを検索した際、検索結果ページの上部や下部に表示される広告のことです。
特長:検索意図が明確なユーザーへ直接アプローチできるため、コンバージョン率が高い傾向にある。
主要指標:クリック率(CTR)、コンバージョン率(CVR)、1コンバージョンあたりの費用(CPA)など。
ディスプレイ広告
Webサイトやアプリのバナー枠に表示される広告です。ユーザーの閲覧履歴や属性に基づき、最適な広告を出す「ターゲティング広告」が一般的。
特長:潜在層への認知拡大やリターゲティングに有効。
主要指標:インプレッション数、クリック数、CTR、CPAなど。
SNS広告
Facebook、Instagram、Twitter、TikTok、LinkedInなど、SNSプラットフォーム上に配信する広告。ユーザーの興味関心やフォロワー数、行動履歴を活用して、よりパーソナルなターゲット設定ができる。
特長:クリエイティブ表現の自由度が高く、バイラルも狙える。
主要指標:クリック数、いいね数、シェア数、CVRなど。
2-2. SEO(検索エンジン最適化)
Webサイトが検索エンジン(Googleなど)の自然検索結果で上位表示されるように最適化する手法を指します。
特長:長期的に安定したアクセスを見込めるが、成果が出るまでに時間がかかる場合が多い。
主要施策:キーワード選定、サイト構造の改善、モバイル対応、コンテンツの質向上、被リンク対策など。
主要指標:オーガニック検索からの流入数、検索順位、直帰率、コンバージョン数など。
2-3. SNS(ソーシャルメディア)運用
広告とは別に、SNSアカウントを運用して情報発信・コミュニケーションを行う取り組み。
特長:ユーザーとの双方向コミュニケーションにより、ブランドロイヤルティ向上やクチコミ拡散を狙える。
運用施策:投稿コンテンツの企画・制作、コメント対応、キャンペーン企画、インフルエンサー活用など。
主要指標:フォロワー数、エンゲージメント率(いいね・コメント・シェア)、サイト誘導数など。
2-4. MA(マーケティングオートメーション)ツール
見込み客の行動履歴をトラッキングし、ステージに合わせたメール配信やスコアリングを自動化する仕組み。
特長:複数のチャネル(メール、Web、SNSなど)を一元管理し、リードナーチャリング(見込み客の育成)を効率化。
活用例:BtoB企業のインサイドセールスと連携、ホワイトペーパーやウェビナーへの誘導など。
主要指標:リード数、SQL(Sales Qualified Lead)数、開封率、CVRなど。
第3章:成功のために押さえるべきポイント
ここまで挙げた手法はそれぞれ魅力的ですが、それらをただ“やみくもに実行する”だけでは成果は望みにくいものです。デジタルマーケティングを成功させるには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
3-1. ビジネス目標との整合性
まず何よりも大切なのが、ビジネスゴールとマーケティング施策がきちんと紐づいているかということです。たとえば、「ECサイトの売上を20%上げたい」のか、「BtoBでリード(見込み客)を増やしたい」のか、「新サービスの認知度を上げたい」のか――目標によって選ぶべき手法や指標がまったく変わります。
BtoC ECサイトならROAS重視で広告を最適化し、カート放棄対策やLTVを意識するなど。
BtoBリード獲得なら、ランディングページ、ホワイトペーパー、Webセミナー(ウェビナー)などでリード収集し、MAツールを使ったナーチャリングが鍵。
新サービス認知拡大なら、SNSやディスプレイ広告などで大量のインプレッションを稼ぎつつ、動画コンテンツやPRと組み合わせる戦略が有効。
このように目的と手段をしっかり紐づけることが、デジタルマーケティングの成功へ第一歩です。
3-2. 計測環境の構築とデータ分析
デジタルの強みは「効果測定がしやすい」ことですが、そのためには適切な計測基盤(GoogleアナリティクスやGTMなど)を整え、コンバージョンポイントやユーザー行動を確実にトラッキングしておく必要があります。これが整っていないと、広告費をどこに配分すべきか、どの施策が成果を生み出しているのか判断できず、感覚的な運用に陥ってしまいます。
GTM(Google Tag Manager)でタグを一元管理し、ページビューやクリック、フォーム送信などのイベントを計測。
GA(Googleアナリティクス)でランディングページ別のCVRや流入元を分析。
ダッシュボード化(Data StudioやBIツールなど)して、経営層にも可視化することで、スピーディーな意思決定を行う。
分析の際は、KPIをどこに置くかという設計も欠かせません。たとえば広告運用ならCPA(Cost Per Acquisition)やROAS(Return On Ad Spend)を用い、長期的な顧客価値(LTV)まで見据える視点も必要となります。
3-3. PDCAとアジャイルな改善
デジタルマーケティングは、成功に向けた“カンフル剤”ではなく、継続的に改善を繰り返すプロセスです。小さく施策を打ってはデータを見て振り返り、改善策を実行して再度検証というサイクル(PDCA)を可能な限り短く回すことが大切です。
ランディングページのABテスト:ヘッドラインやフォーム項目、画像などを少しずつ変えてCVRを比較。
広告クリエイティブの多パターン試作:バナーやテキスト、SNS投稿などを複数用意し、どのメッセージが最も響くか検証。
アジャイル開発の考え方:Webサイトやアプリの改修を段階的に行い、ユーザー反応をチェックしながら更新を続ける。
特にスタートアップや新規事業では、仮説検証のスピードこそが競合優位につながることが多々あります。
3-4. 組織体制とリソースの最適化
デジタルマーケティングはツールや分析スキルだけではなく、組織面での準備も欠かせません。広告運用を外部代理店に任せている企業は多いですが、社内にある程度の知見を蓄えないと、「代理店からの報告を受けるだけ」になりがちです。結果として、経営の意図を反映した細やかな運用が難しくなり、デジタル施策が戦略と乖離してしまう恐れがあります。
インハウス化の検討:広告運用やSNS管理、Webサイト更新などを社内で行うメリットとデメリットを見極める。
人材スキルアップ:担当者が基本的なデジタル知識を持ち、代理店や外部パートナーと対等に協議できる体制を構築。
ステークホルダーとの連携:営業部門、開発部門、経営層との意思疎通を円滑にし、施策の速やかな実行や改善に繋げる。
第4章:デジタルマーケティングの全体像と典型的なステップ
ここまで紹介したように、デジタルマーケティングの成功には複数の要素が絡み合います。ここでは「どんなステップを踏めばいいか」を簡単なフローにまとめてみましょう。
ビジネス目標・KPIの設定
どんな成果を目指すのか(売上、リード獲得数、ROIなど)を明確化し、そこから逆算する形でKPIを設定。
ターゲット設定と戦略立案
ペルソナを具体化し、どのチャネル(検索、SNS、広告など)で、どんなアプローチをするかを決定。
計測基盤の整備(GTM、GAなど)
目標とするコンバージョンが計測できるようタグやアナリティクスを設定し、ダッシュボードで可視化。
広告・SEO・SNS・MAツールなどの実行
リスティング広告やディスプレイ広告、SNS運用、SEOの継続施策、そして必要に応じてMAツールの導入・運用を開始。
データ分析・レポーティング
定期的に広告効果やコンバージョン数を確認し、キーワードやクリエイティブなど改善の余地を探索。
PDCAサイクル
小規模のABテストや新しいチャネルへのトライなどを実施し、その結果を踏まえて施策を改良する。
組織体制・リソース最適化
成果が大きくなるほど社内リソースの比重を高める(インハウス化)か、逆に外注・代理店連携を強化するか検討する。
第5章:まとめと次回予告
デジタルマーケティングは、「オンライン広告を出す」「SNSを運用する」「SEOをやる」といった個別の施策だけでなく、ビジネス目標を起点に、計測と改善を繰り返しながら最適解を探すプロセスだといえます。そのためには、全体像を俯瞰する視点と、個々の施策を深く運用できる専門知識の両面が求められます。
ここで挙げたように、広告、SEO、SNS、MAツールなどはどれも魅力的な手法ですが、成功には以下のポイントが欠かせません。
ビジネス目標との連動:売上増?リード獲得?認知拡大?
計測環境の整備:GTM、GA、ダッシュボード構築
PDCAの高速回転:ABテスト、クリエイティブ検証、ランディングページ最適化
組織体制とリソース確保:インハウス化の是非、代理店との連携
次回(第2回)は、「ビジネス目標から逆算するKPI設定の基本」をテーマに、より具体的に「どのようにビジネスゴールとマーケティングKPIを紐づけるのか?」を深掘りしていきます。目標指標と副次指標の設定事例や、事業規模やフェーズ別の目標設定のポイントなどを取り上げますので、どうぞお楽しみに。
おわりに
本記事では、デジタルマーケティング全体の概要と主要手法、そして成功のために重要な考え方を概観しました。細部に踏み込むと、それぞれの手法だけで本一冊分の知識が必要になるほど奥が深い世界ですが、全体の俯瞰ができていないまま個別施策に走ると、成果が出せずに終わりがちなのも現実です。
この連載を通じて、デジタルマーケティングの基礎から応用までを段階的に整理し、「どうすれば自社のビジネス目標に結びつくか」を考えるヒントになれば幸いです。今回の内容が、これから取り組む方や、すでに取り組んでいるが成果が伸び悩んでいる方にとって、一歩前進のきっかけとなることを願っています。
では、第2回の記事でまたお会いしましょう。ビジネス目標から逆算するKPI設定を学んで、より戦略的にデジタルマーケティングを運用していくための秘訣を、詳しく解説してまいります。どうぞお楽しみに。
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