【第2回_ケーススタディ編】マーケティングの本質と実践アプローチ:スターバックスとエアビーアンドビーの成長物語
- マーケティング事業 統括 I
- 2月13日
- 読了時間: 13分
はじめに
前回(第2回)の記事「マーケティングの本質と実践アプローチ」では、企業がビジョンや戦略を具現化し、具体的なビジネス成果を創出するために欠かせないマーケティングについて、その基本的な考え方や代表的なフレームワークをご紹介しました。
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
オンラインとオフラインの統合(OMO/O2O)
インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングの使い分け
KPI設定やデータ分析の重要性
全社的な連携(営業・開発・ファイナンスなど) 等
これらはマーケティングを語るうえで不可欠な要素ですが、実際の企業がどのように活用し、ビジネスを成長させているのかは気になるところではないでしょうか。そこで本記事では、世界的に有名な2つの企業、スターバックス(Starbucks)とエアビーアンドビー(Airbnb)を題材に、具体的なマーケティング手法や組織的取り組み、さらには顧客の心を掴むための工夫などを深掘りしてみます。前回の内容を復習しつつ、ぜひ「自社ならどう応用できるか」という視点で読んでみてください。
1. スターバックス(Starbucks)の場合
1-1. スターバックスのマーケティング戦略の全体像
スターバックスが世界的なコーヒーチェーンとして成長し、広く支持されている背景には、「コーヒーを売る」というよりも「顧客体験を売る」という考え方があります。創業期から掲げている「サードプレイス(家庭や職場以外の心地よい場所)」というビジョンを、マーケティング戦略の軸に据えてきました。
サードプレイス戦略: コーヒーの味や品質はもちろん、居心地の良い空間や接客、コミュニティを重視。
ブランディング: ロゴや店舗デザイン、スタッフのユニフォームなどを統一的に設計することで「スターバックスらしさ」を確立。
顧客の声を活かす: メニュー開発や店舗体験の改善に、ファンのフィードバックを積極的に取り入れる。
結果として、多くの人にとってスターバックスは「コーヒーを買いに行く場所」ではなく「落ち着ける空間で好きなドリンクを楽しむ時間を過ごす場所」として認識されるようになりました。
1-2. セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング(STP)
セグメンテーション
スターバックスは、コーヒー市場を年齢・性別・所得などのデモグラフィックだけではなく、ライフスタイルや価値観というサイコグラフィック要素で切り分けています。たとえば、「高級志向のビジネスパーソン」「落ち着いた空間を好む学生・主婦層」「SNS映えを意識する若年層」など、多様な層へ向けて異なる切り口でアプローチをしているのです。
ターゲティング
特にスターバックスが重視してきたのが、「コーヒーにこだわりを持ち、ゆっくりくつろげる場所を求める層」でした。これにより「高速回転させるファストフード型のコーヒー店」とは異なる路線を選び、ゆったりと過ごす時間に価値を置く顧客層を取り込むことに成功しています。
ポジショニング
価格帯: 安価なコンビニコーヒーやファストフードコーヒーよりは高めの価格設定。しかし、「居心地の良い空間」「豊富なカスタマイズオプション」という付加価値を提供することで、それに見合う対価だと顧客に感じさせる。
ブランドイメージ: 「洗練」「安らぎ」「ちょっとした贅沢」。店内で流れる音楽やインテリア、季節限定のメニューなどがブランドイメージをさらに強化している。
1-3. オンラインとオフラインの統合(OMO/O2O)
スターバックスアプリとリワードプログラム
スターバックスは、モバイルアプリを使った会員制の「スターバックスリワード」プログラムを導入しています。ユーザーはアプリを通じてクレジットカードやチャージ金額を管理し、購入ごとにポイントを獲得。一定ポイントで無料ドリンクや限定特典を得られる仕組みにより、リピーターを効果的に育成しています。
OMOの具体例:
アプリで事前注文し、店舗で並ばず受け取りが可能。
個人の好みに合わせたおすすめドリンクやカスタマイズ情報をプッシュ通知で配信。
新商品の告知や季節のイベント情報もアプリと店舗の両面で展開。
1-4. インバウンドマーケティングの取り組み
スターバックスは大々的なテレビCMよりも、SNSや口コミを中心としたインバウンドマーケティングに注力する方針をとってきました。たとえば、新作のフラペチーノや限定グッズがSNSで話題になるような仕掛けを作り、ユーザー自身が写真を投稿したり、友人を誘ったりする流れを促進しています。
Instagram映え: 彩り鮮やかなドリンクを季節ごとに発売し、ユーザーが自主的にハッシュタグをつけてSNS投稿。
店舗限定メニュー: 地域限定・店舗限定のレアメニューを開発し、ユーザーの探求心や収集欲をくすぐる。
結果的に大規模な広告投下を行わなくても、顧客が「ファン」として周囲に情報を広めるという形でブランドロイヤルティと認知度の向上を両立しています。
1-5. 成功要因のまとめ
スターバックスのマーケティング成功要因を整理すると、以下の通りです。
顧客体験重視: 単なる商品販売ではなく、居心地の良い空間・コミュニティを重視する戦略で差別化。
STPの巧みな応用: 高級カフェとファストフードの中間に位置し、「少し贅沢したい層」を取り込んだ。
OMO施策: モバイルアプリ・リワードプログラムによって来店頻度や顧客満足度を高める。
インバウンドマーケティング: SNSでの話題作り、口コミ喚起にフォーカスし、大規模広告に頼らない集客を実現。
その結果、世界各地で愛されるカフェブランドとして、競争の激しいコーヒー市場のなかでも強いブランド力を維持し続けています。
2. エアビーアンドビー(Airbnb)の場合
2-1. エアビーアンドビーのマーケティング戦略の全体像
エアビーアンドビーは、旅行者(ゲスト)と宿泊場所を提供するホストをマッチングさせるプラットフォームを運営しています。同社のビジョンは「誰もがどこでも暮らすように旅できる世界の実現」。ホテルとは異なる「ローカルな体験」「人とのつながり」を軸に、旅行の新しいスタイルを提案しています。
人間味あるブランディング: 「ホストとゲストを“友人”としてつなぐ」という世界観をPR。
コミュニティ重視: ホスト向けガイドやイベント開催で地域コミュニティを活性化。
多角化: 単なる宿泊だけでなく、Airbnb Experiences(体験提供サービス)や長期滞在プランなどに展開。
2-2. STP:従来のホテル市場とは違う切り口
セグメンテーション
エアビーアンドビーは「旅行者」という大きなカテゴリーを、さらに細分化しています。
低価格志向のバックパッカーや若年層
ホテルより安く泊まりたい、現地の人との交流を求める層
ユニークな宿泊体験を求める層
一軒家や別荘、ユニークな内装の物件など、思い出づくり重視
ビジネス出張者
通常のホテルよりも広いスペースで仕事をこなしたい層(長期滞在ニーズも含む)
ターゲティング
特にエアビーアンドビーが最初に強く訴求したのは、「ホテルより安く、かつローカルな体験をしたい」という若年層や個人旅行者でした。彼らのSNS拡散力や口コミ力を味方に、人とのつながりをキーワードとしたマーケティングで利用者を拡大。後にはビジネスユーザー向けの機能追加や、ラグジュアリープロパティを扱う「Airbnb Luxe」などへも展開しています。
ポジショニング
ホテル業界や旅行代理店との違い: “予約サイト”ではなく“コミュニティプラットフォーム”として差別化。
ホストとゲストの共創: ホストが家や部屋を自由に登録し、ゲストは評価やレビューを通じてプラットフォームに参加。エアビーアンドビーは技術とコミュニティ運営を担う立場。
2-3. デジタルとリアルの連動
アプリ・ウェブの直感的UX
エアビーアンドビーのウェブサイトやモバイルアプリは、写真やレビューを中心に、誰でも簡単に検索・予約ができる直感的なデザインが特徴。旅行者が物件の雰囲気をイメージしやすいように写真を充実させ、口コミを可視化し、安心感を与えるUIを構築しています。
実際の宿泊体験
ゲストがホストの家に滞在することで、
地元ならではの情報共有(おすすめのレストランや観光スポット)
ホストとのコミュニケーションによる異文化交流
といった経験を得る。これはホテルにはない付加価値であり、顧客がSNSやブログなどで感想を拡散してくれる好循環を生み出します。
2-4. インバウンドマーケティングとコミュニティ運営
エアビーアンドビーは、初期から大規模なテレビ広告に頼るよりも、ユーザーが自然発生的に情報を拡散する仕組みを追求してきました。
レビュー・評価システム: 宿泊後にはゲストとホストの相互評価を行い、それが次の予約に大きく影響。良い評価が集まりやすいホストは人気が出て自然と収益アップし、ゲストは安心して予約できる。
SNS戦略: ゲストが滞在中のエピソードや写真をSNSに投稿し、その拡散力で新たな利用者を獲得。
Airbnb Experiences: ツアーや体験(料理教室、街歩きガイドなど)をホストが企画・提供できるプラットフォーム。ここでもホスト自身が発信者となり、地域文化を広める担い手として活動することで、エアビーアンドビー全体のブランドバリューが高まる。
2-5. 成功要因のまとめ
エアビーアンドビーのマーケティング成功要因は、以下のように整理できます。
ホテルとは異なるコンセプト: 「ローカル体験」や「人とのつながり」を強く打ち出し、差別化。
デジタルプラットフォームのUX: 写真重視・レビュー重視のUIで安心感を創出し、予約ハードルを下げる。
コミュニティ重視: ホストとゲストが互いにプラットフォームを育てていく仕組みで、自発的なプロモーションが生まれる。
インバウンドマーケティング: 巨額の広告費に依存せず、ユーザー同士の拡散や口コミを主軸に成長。
これにより、世界中に急速にユーザーベースを広げ、ホテル業界や民宿業界に大きなインパクトを与える存在となりました。
3. スターバックスとエアビーアンドビーに共通するポイント
両社は業界も業態も大きく異なりますが、マーケティングの観点で見ると以下の共通点があります。
3-1. 顧客体験(CX)の徹底的な重視
スターバックス: 居心地の良い空間とカスタマイズ自由度、スタッフとのコミュニケーション
エアビーアンドビー: ホストとの交流やローカルな宿泊体験、レビューを通じた安心感
いずれも「モノを売る」だけでなく、顧客がどんな体験をし、どんな感情を得るのかを第一に考えています。
3-2. コミュニティ形成とインバウンドマーケティング
スターバックス: ブランドを愛するファンがSNSや口コミで情報を広め、リピーターを増やす。
エアビーアンドビー: ホストとゲストがコミュニティを拡大し、利用者同士で経験談を共有。
大規模なマス広告に依存せず、顧客同士が自然に拡散してくれる仕組みを作り上げている点が共通しています。
3-3. オンラインとオフラインの融合(OMO/O2O)
スターバックス: スマホアプリを活用して顧客データを蓄積、事前注文やロイヤルティプログラムを実施。
エアビーアンドビー: デジタルプラットフォームで検索・予約し、実際の宿泊体験を通して顧客満足を高める。
両社ともにオンライン・デジタルで顧客を取り込みながら、最終的にはオフラインでの顧客接点(店舗・宿泊)を充実させることで高い満足度とリピート率を獲得しています。
4. 第2回の内容との対比・応用
前回の記事「マーケティングの本質と実践アプローチ」では、
STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)
オンラインとオフラインの統合(OMO/O2O)
インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングの使い分け
ゴール設定とKPI明確化
組織連携(マーケ、営業、開発、ファイナンス)
これらを体系的に学びました。今回取り上げたスターバックスとエアビーアンドビーは、まさにこれらの要素を実践している好例です。
STP: どちらも単なるデモグラフィックではなく、顧客のライフスタイルや価値観に注目。
OMO: デジタルとリアルをシームレスに連携させ、顧客体験を最大化。
インバウンド: SNSや口コミ、レビューで自走的に拡散するマーケティングスタイル。
KPI: アプリ利用者数、リピート率、SNSでの言及数やレビュー評価など、顧客行動データを重視。
組織連携: スターバックスやエアビーアンドビーはマーケ部門のみならず、店舗スタッフやホストコミュニティを巻き込み、全社的に顧客体験の向上を目指す。
5. ここから学ぶべき実践的ポイント
5-1. 「体験を売る」という視点を持つ
両社に共通するキーワードは「体験(Experience)」。顧客が商品を購入した後、どんな気持ちになり、どんなストーリーを語りたくなるのかを想像してみることで、新しいマーケティングアイデアが生まれるはずです。
自社製品やサービスは、顧客にどのような体験をもたらすのか?
その体験を増幅させるために、オンライン・オフラインでどんな施策が考えられるか?
5-2. ファンを育成し、コミュニティを活性化する
SNSや口コミは企業のコントロールを超えたところで自然発生的に行われるため、顧客がポジティブな体験をしやすい仕組みづくりが肝心です。スターバックスの店舗体験やエアビーアンドビーのレビュー・ホスト制度など、ファン同士がコミュニケーションしやすい「場」を整えることで、ブランド価値が自走的に高まっていきます。
5-3. データ分析とリアルタイムの改善
デジタルチャネルが重要になる現代では、アプリやウェブサイトを通じて豊富なデータが得られます。スターバックスリワードやエアビーアンドビーのレビュー機能によって蓄積される顧客行動データを分析し、施策の効果や顧客の反応をリアルタイムで把握して改善に活かすことが、継続的な成長につながります。
6. まとめと次回予告
スターバックスとエアビーアンドビーのケーススタディから見えてくるのは、「顧客中心型のマーケティング」の強力さです。第2回の記事でご紹介した理論やフレームワークが、まさに現実世界で活きている好例といえます。
STPを通じて、自社が狙うべき顧客像とポジションを明確化
オンラインとオフラインを融合し、顧客がストレスなく行動できる環境を整備
ファンコミュニティを育て、インバウンドマーケティングで自走的に認知拡大
顧客データを活用し、絶えず体験価値を高める改善プロセスを回す
次回(第3回)は、「収益改善・ファイナンス戦略」を取り上げます。マーケティングで売上を伸ばしても、利益が残らなければ事業は持続しません。さらに、新規事業や海外展開など攻めの投資を検討する際には、資金調達や財務基盤の整備が不可欠です。どのように収益構造を見直し、キャッシュフローを最適化し、資金を確保していくのかについて、具体的な事例やフレームワークを踏まえながら解説していきます。ぜひお楽しみに。
執筆後記
本記事では第2回「マーケティングの本質と実践アプローチ」の理解を深めるために、スターバックスとエアビーアンドビーという2つの企業の事例を詳しく取り上げました。両社の成功は、決して「運」や「時代の流れ」だけではありません。自社のビジョンと顧客のニーズを巧みに結びつけ、オンラインとオフラインを融合しながらファンコミュニティを育てるという、現代マーケティングのエッセンスが詰まっているのです。
また、どちらの企業も新しいチャレンジを続けています。スターバックスはデジタルオーダーをさらに拡充したり、サステナビリティに配慮した店舗運営を進めたり。エアビーアンドビーは「長期滞在プラン」や「オンライン体験」など、新たな市場へのアプローチを強化しています。このようにマーケティング戦略も固定化せず、常に顧客の変化に寄り添いながら進化している点にも注目してください。
皆さまもぜひ、自社のマーケティング活動において「お客様が求めている体験とは何か」「それを実現する仕組みやコミュニケーションの方法はどうあるべきか」を探求し、積極的に実践・改善を繰り返してみてください。次回は「収益改善・ファイナンス戦略」をテーマにお届けします。引き続きよろしくお願いいたします。
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