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【第3回_ケーススタディ編】収益改善・ファイナンス戦略:セールスフォースとショッピファイの成長物語

  • 執筆者の写真: 財務戦略部 統括 R
    財務戦略部 統括 R
  • 2月20日
  • 読了時間: 12分

はじめに

第3回の記事「収益改善とファイナンス戦略」では、企業がビジョンを実現するうえで必要となる“お金”と“利益”のマネジメントについてご紹介しました。売上を伸ばすだけではなく、利益とキャッシュフローを安定的に生み出す仕組みを作ることが重要であり、投資・資金調達・キャッシュフロー管理など、さまざまなファイナンス領域の知見を総動員する必要がある──という趣旨でした。

本記事では、そんな「収益改善・ファイナンス戦略」の視点から、世界的に成功を収めている2つの企業、セールスフォース(Salesforce)とショッピファイ(Shopify)のケーススタディを取り上げます。両社はいずれもSaaS型(クラウドサービス)やサブスクリプションモデルを駆使し、急激に成長してきた背景がありますが、その過程では収益構造の整備大胆なファイナンス戦略が大きな役割を果たしてきました。さらに、第1回(ビジョンを実現するための戦略づくり)の内容とも結びつけながら、両社がどのように企業価値を高めてきたのかを探っていきましょう。


1. セールスフォース(Salesforce)の場合

1-1. セールスフォースのビジョンとビジネスモデル

セールスフォースは、創業者マーク・ベニオフによって1999年に設立され、「No Software(ソフトウェア不要)」というキャッチフレーズのもと、クラウド上で提供されるCRM(顧客管理)サービスで成功を収めました。創業時から掲げるビジョンはシンプルで、**「企業が顧客との関係をより良くするためのツールを、いつでもどこでも、低コストで利用できる世界を作る」**というもの。

サブスクリプションモデルの先駆け

同社の画期的な点は、当時の業務ソフトウェアがライセンス一括購入やオンプレミス導入型が主流だったなかで、サブスクリプション(定額課金)モデルを導入し、月額利用料のみでCRM機能を使えるようにしたことです。これにより、導入コストのハードルが大幅に下がり、中小企業にも手が届くサービスとなりました。

1-2. 収益改善の鍵:顧客基盤拡大とアップセル戦略

顧客数の爆発的増加

サブスクリプションモデルでは「顧客単価 × 顧客数 × 継続率」が収益を決める重要指標です。セールスフォースは初期から「導入が容易」「必要な機能をすぐ使える」というUXを強みに、中小から大企業まで一気に顧客基盤を拡大しました。その結果、毎月のサブスク収入(MRR: Monthly Recurring Revenue)が積み上がり、安定的な収益源を獲得できるようになったのです。

アップセル・クロスセルでARPU(ユーザーあたり平均収益)向上

さらに、セールスフォースは顧客が使い始めると、「レポーティングやダッシュボード機能をより高度化したい」「AIを活用して顧客分析したい」といったニーズが深まることを見越していました。そこで、追加モジュール(サービスクラウド、マーケティングクラウドなど)を用意し、段階的にアップセル・クロスセルを進めることで、1顧客あたりの売上を大きく伸ばす戦略を取ったのです。この「ステップアップしてもらう」構造が収益改善の要となりました。

1-3. ファイナンス戦略:投資を駆使した急成長

IPOとM&A

セールスフォースは2004年にNYSE(ニューヨーク証券取引所)でIPO(新規株式公開)を果たし、大規模な資本調達に成功。その後も好調な株価を背景に、M&Aによるサービス拡充を積極的に行いました。たとえば、2008年にデータ統合プラットフォームのInformatica(インフォマティカ)と提携、2013年にはExactTarget(エグザクトターゲット)を買収し、マーケティングオートメーション分野へ参入するなど、収益源を多角化してきたのです。

R&D投資とパートナーエコシステム

セールスフォースは大部分の利益をR&D投資に回し、新機能開発やAI分野の研究に注力。また、パートナー企業が自社のプラットフォーム上でアプリを開発・販売できる「AppExchange」を整備し、エコシステムを拡大していきました。これにより、ユーザーは自社特有の業務アプリを簡単に導入でき、セールスフォース自体の価値も継続的に高まる好循環が生まれています。

1-4. ビジョンとファイナンスを繋げる組織・文化

セールスフォースの創業者マーク・ベニオフは、「社会貢献や非営利活動にも企業としてコミットする」姿勢を鮮明にしており、1-1-1モデル(製品・資金・人材の1%を社会に還元)を提唱するなど、独自のカルチャーを育みました。これにより企業の社会的評価も高まり、投資家や顧客の信頼を獲得しやすくなるという間接的な収益メリットも享受しているのです。


2. ショッピファイ(Shopify)の場合

2-1. ショッピファイのビジョンとイコマース革命

ショッピファイは2006年にカナダで創業し、誰でも簡単にオンラインストアを立ち上げられるプラットフォームを提供。小規模事業者や個人クリエイターがEコマースに参入しやすくなる環境を整え、世界的に数百万を超えるマーチャント(加盟店)を抱える企業へ成長しました。ビジョンは「コマースをより良くする(Make Commerce Better)」という明確な言葉に集約されます。

初期のビジネスモデル

ショッピファイも、サブスクリプション型で利用料を月額課金し、追加で決済手数料などを収益源とするモデルを築いてきました。ECサイト構築を複雑な作業から解放し、テンプレートとクラウドサービスで誰でもすぐにネットショップを運営できる点が大きな魅力でした。

2-2. 収益改善:マルチチャネルとアップグレード戦略

マルチチャネル対応

当初は「独自ドメインでネットショップを作る」サービスが中心だったショッピファイですが、顧客のニーズが拡大するにつれ、AmazonやeBay、SNS、実店舗POSとの連携など、多彩なチャネルとの統合を進めました。これによりマーチャントが売上を増やしやすくなり、ショッピファイ自身も月額プランや決済手数料収入の総額を引き上げることができました。

各種プランの用意とアップグレード誘導

ショッピファイは初心者向けのベーシックプランから、大規模EC向けのAdvancedプラン、さらにエンタープライズ向けのPlusプランまで、複数の価格帯を設定。最初は小規模で始めた事業者が、売上拡大に応じて高額プランにアップグレードするよう誘導する仕組みを整えました。これにより、ユーザーの成長とともに自社の収益も拡大する“Win-Win”モデルを実現しています。

2-3. ファイナンス戦略:IPOと新事業投資

2015年のIPO

ショッピファイは2015年、NYSEとTSX(トロント証券取引所)で同時上場し、約1.3億ドルを調達しました。これにより得た資金をもとに、グローバル展開新機能の開発大企業向けサービス(Shopify Plus)の拡充などを加速。クラウドインフラへの投資や海外の現地サポート拠点の拡充も進め、ユーザーベースをさらに拡大しました。

キャッシュフローを活かした周辺事業

ショッピファイは本業のECプラットフォーム収益で安定したキャッシュフローを築きながら、以下のような周辺事業へ投資し、収益源を多角化しました。

  • Shopify Payments(独自の決済サービス)

  • Shopify Capital(マーチャント向け資金融資)

  • Shopify Fulfillment Network(物流領域)

特にShopify Capitalは、EC事業者の売上データをもとに融資の可否や上限額を決める仕組みで、商業銀行やVCとは違う独自視点の融資を可能にしています。これがマーチャントの事業拡大を助け、結果的にショッピファイの手数料収入も増やす好循環を生み出しています。

2-4. ビジョン×ファイナンス×組織文化

ショッピファイは「Make Commerce Better」というビジョンのもと、創業期から「起業家精神」を大切にするカルチャーを育んできました。従業員自身が“マーチャントの成功をサポートするパートナー”という意識を強く持つように教育し、「ユーザー企業が成功すれば自社も潤う」ビジネスモデルを全社的に浸透させています。こうした考え方は投資家にも評価され、上場以降の追加株式発行や社債発行などで有利に資金調達を進めやすくなりました。


3. セールスフォースとショッピファイに共通するポイント

3-1. サブスクリプションモデルによる安定収益と拡張性

両社とも、**サブスク型(定額課金)**をベースにしていることが大きな特徴です。このモデルでは、毎月の継続課金がベースラインを形成するため、売上の予測が立てやすく、財務計画や投資判断をしやすいという利点があります。また、追加機能や上位プランへのアップセルを促すことで、ユーザーの成長とともに収益が伸び続ける仕組みを作り上げました。

3-2. 収益の多角化と顧客満足度の向上

  • セールスフォース: CRMから始まり、マーケティング、サービス、コマース、AI、分析など多領域へ拡張

  • ショッピファイ: EC構築だけでなく、決済・融資・物流まで手広く展開

どちらの企業も**“顧客を総合的に支援する”**という視点で周辺サービスを開発・買収し、アップセル・クロスセルを通じて顧客満足度と売上を同時に高めることに成功しています。

3-3. ファイナンス戦略としてのIPOと積極投資

  • セールスフォース: 上場後、資金を活用して大型M&Aを実施し、サービスラインを広げながら世界的規模へ成長

  • ショッピファイ: IPOを起点に世界展開を一気に加速し、物流・金融などEC周辺領域へ積極投資

両社ともに「ビジョンを実現するうえで最も効果的な資金使途」を明確に描き、IPOや株式発行、社債などを活用して巨額の資金を調達しつつ、リスクをコントロールしている点が共通しています。

3-4. ビジョンと組織文化の結合

  • セールスフォース: 1-1-1モデルや社会貢献を通じて企業イメージを高め、社員や投資家の支持を得やすい構造を作る

  • ショッピファイ: 「Make Commerce Better」を旗印に、従業員が“顧客(マーチャント)と共に成長”する姿勢を徹底

単なる収益改善だけでなく、企業の存在意義(ビジョン)を組織文化に落とし込み、社員やステークホルダーが同じ方向を向けるように設計されているのが、両社の強みといえます。


4. 第3回の内容との対比・応用

前回(第3回)で取り上げた「収益改善とファイナンス戦略」の重要ポイントは、次の通りでした。

  1. 収益改善

    • 利益構造の可視化・ボトルネック解消

    • 付加価値アップによる単価向上・リピート率増

    • キャッシュコンバージョンサイクルの短縮など

  2. ファイナンス戦略

    • 自己資本・他人資本・ハイブリッドファイナンスの使い分け

    • 成長ステージ別の資金調達(VC、IPO、M&A など)

    • 事業の収益構造を踏まえた投資・キャッシュフロー管理

今回のセールスフォースとショッピファイは、これらをSaaS/クラウドというビジネスモデルに適用し、かつ大胆なIPO・M&Aなどを駆使することで、**ビジョン(顧客に大きな価値を提供する世界)**を実現しつつ高い企業価値を創出している事例といえます。

  • SaaSの安定収益モデル → 投資家に評価され、IPOで好条件を獲得

  • 得た資金を積極投資 → 追加サービス開発や周辺領域拡張 → さらに売上・利益が増大

という好循環がまさに「第3回」で解説した理想的なファイナンス・収益戦略の具体例と言えるでしょう。


5. ここから学ぶべき実践的ポイント

5-1. 事業モデルを「継続収益型」に最適化する

SaaSに限らず、継続課金やリピート購入が見込めるモデルを構築できれば、企業の財務基盤は大きく安定します。既存事業をサブスク化できる余地はないか、あるいは追加サービスでリピート率を高められないか、検討してみる価値があるでしょう。

5-2. 顧客の成長を支援し、自社もアップセル・クロスセルを狙う

  • セールスフォース: 顧客のニーズが深まるにつれ上位プランや追加サービスを提案

  • ショッピファイ: マーチャントの売上拡大に応じて、決済手数料や上位プラン、金融商品などを提供

顧客のビジネス成功が自社の収益向上につながる仕組みを作ることで、Win-Winの関係を築きつつ収益改善を継続できます。

5-3. 市場評価を上げ、資本市場を味方にする

  • 成長性の高いビジョンと安定的な収益モデルを組み合わせれば、IPOや社債発行で大きな資金を調達できる。

  • 得た資金をさらにR&DやM&Aに投下し、ビジネス領域を拡張することで、競合に先行できる。

この「成長 → 市場評価向上 → 資金調達 → さらなる成長」というサイクルを回すうえで、自社のストーリーや組織文化を投資家にも正しく伝えることが重要です。

5-4. 社会的意義や組織文化にも配慮したファイナンス戦略

両社は単に稼ぐだけでなく、**社会的な目的(顧客に価値をもたらす世界の実現)**を掲げ、社員のモチベーションやブランドイメージを高めています。これが投資家や顧客からの信頼を集め、企業の長期的な安定と財務基盤強化にも寄与しています。


6. まとめと次回予告

今回のケーススタディ編では、セールスフォースショッピファイがどのように収益改善とファイナンス戦略を実行し、ビジョンを現実のものとしてきたかを見てきました。

  1. サブスクリプション(定額課金)モデルとアップセル戦略

  2. IPOを活用した大規模資金調達と投資

  3. 周辺領域への拡張で顧客満足度と売上を同時に向上

  4. ビジョンと組織文化をリンクさせ、ステークホルダーの支持を得る

これらは、第1回の記事(「ビジョンを実現するための戦略づくり」)ともつながり、明確な方向性と持続的な収益基盤をセットで構築することの強さを証明しています。


次回予告

次回(第4回以降を経て最終的に第5回へ進む流れを想定)、連載の総括としてイノベーション創出や変化対応力の強化など、企業が継続的に競争優位を維持するための更なる視点を深掘りしていきます。

  • DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI時代への対応

  • オープンイノベーション(外部連携・スタートアップ連携)

  • 組織文化とリーダーシップが支える“次の成長ステージ”とは

これまで取り上げてきた戦略・マーケティング・ファイナンス・組織マネジメントの知見を総合し、企業が未来に向けてどのように変革を加速させていけるのかを考えてみたいと思います。


執筆後記

本記事では「収益改善・ファイナンス戦略」を軸に、セールスフォースとショッピファイの成功事例を紹介しました。両社の軌跡を振り返ると、単なる売上拡大のテクニックに終始することなく、

  • 顧客に価値をもたらす明確なビジョン

  • 継続課金モデルの安定収益構造

  • IPOをはじめとした大胆なファイナンス戦略

  • 組織文化による社員の一体化

が組み合わさり、結果的に圧倒的な成長を遂げたことが分かります。これは第1回で述べた「ビジョンを実現するための戦略づくり」において、“収益と資金”という側面が極めて重要であることを改めて示す好例でしょう。

いずれの企業も、イノベーションが激しく競合ひしめくIT・クラウド市場で勝ち抜いてきました。彼らに学べるポイントは多岐にわたります。皆さまもぜひ、自社のビジネスモデルやファイナンス計画に、セールスフォースやショッピファイの事例を参考にできるところはないか考えてみてください。

次回は、さらに未来へ向けたイノベーションと変化対応力のテーマを深掘りし、本連載を総括したいと思います。引き続きご愛読いただければ幸いです。

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