第1回:ビジョンを実現するための「戦略づくり」の基本
- 戦略コンサルタント N
- 1月15日
- 読了時間: 8分
はじめに
企業が長期的に成長し、社会から必要とされ続けるためには「ビジョン」が欠かせません。そして、そのビジョンをどのように実現していくかを示すのが「戦略」です。
「とりあえず売上を上げたい」「なんとなくマーケティングを強化したい」という切り口で動き始めても、組織全体が同じ方向を向いていなければ成果につながりにくく、競合と差別化できないまま迷走してしまうケースもあります。
本記事では、ビジョンと戦略をどのように捉え、描き、そして実行していくのか。その根本となる考え方をご紹介します。次回以降のマーケティング論やファイナンス論などともあわせて読み進めていただくことで、皆さまの企業が目指すべき姿をより明確に描けるようになるはずです。
1. ビジョンと戦略の位置づけ
1-1. ビジョンとは何か
ビジョンとは「数年後、数十年後に、私たちがどのような存在になりたいのか」を明確化したものです。たとえば、ある企業は「世界中に価値を届けるプラットフォームになる」と掲げているかもしれませんし、別の企業は「地域社会の課題解決をリードする企業になる」と謳っているかもしれません。
ビジョンの意義: 社員・経営陣・取引先など、あらゆるステークホルダーが共通の目標を抱き、「なぜ私たちはこの事業を行っているのか?」という根源的な問いに答える拠り所となります。
1-2. 戦略とは何か
これに対して戦略は、ビジョンを実現するための「道筋」「選択と集中」を示すものです。たとえば、同じ「社会課題を解決する」というビジョンを掲げていても、
マーケット重視のアプローチ(顧客ニーズを徹底的に追求し、新規事業開発で勝負)
テクノロジー重視のアプローチ(先進技術を自社のコア能力に据え、パートナーシップ拡大で競争優位を築く)
など、取りうるルートは企業ごとに異なります。ゆえに、戦略立案の際には「自社の強み」「市場環境」「組織の特性」などを総合的に捉えることが重要です。
2. なぜ戦略を描く必要があるのか
ビジョンが抽象的な理想像だけに留まっていては、具体的なアクションにつながりません。そこで、戦略が果たす役割は次のとおりです。
優先すべき領域の明確化リソースには限りがあります。「どの顧客層をターゲットにするのか」「どの事業領域を伸ばすのか」を決めることで、組織全体のエネルギーを結集できます。
組織内外のコミュニケーション指針「こういう事業を優先し、ここに投資する」と掲げれば、社内はもちろん、取引先や株主など周囲との連携も進めやすくなります。
成果測定と学習戦略上の目標を掲げておけば、実際の成果がどの程度達成できたかを測りやすくなります。上手くいかない場合には何が原因かを検証し、次の戦略調整につなげることができます。
3. 戦略策定における基本ステップ
3-1. 自社を深く理解する:内部分析
まずは「自社が何を得意とし、何を課題にしているか」を冷静に見極める必要があります。たとえば有名な経営学の知見として、コア・コンピタンス理論(Prahalad & Hamel)が挙げられます。企業が持つ独自の強み(組織的なノウハウや技術、独自チャネルなど)は何か? それを最大限に活用できる市場はどこか? と考えるのです。
チェックポイント例
自社の強み(特許技術、優れた営業ネットワーク、ブランディング力 など)
経営陣や主要メンバーのスキルセット
組織風土(革新的なチャレンジが推奨されるか、安定性を重視するか など)
「マッキンゼーの7S」のフレームワークを使うこともありますが、必ずしも全要素を網羅する必要はありません。その場に応じて、「スキル」「組織構造」「経営スタイル」のように優先順位が高い視点を中心に抜き出して分析すれば十分です。
3-2. 外部環境を多角的に読む:外部分析
自社だけを見ていても、戦略は描けません。市場環境や競合の動きを踏まえてこそ、勝ち筋が見えてきます。よく挙げられるのがポーターのファイブフォースですが、たとえば海外進出を検討している場合は、CAGEフレームワーク(文化的・行政的・地理的・経済的な距離)を使ってリスクとチャンスを整理するケースもあるでしょう。
マクロ環境のトレンド(人口構成、技術革新、規制の変化 など)
業界構造(競合が乱立しているのか、寡占状態なのか など)
顧客ニーズの変化(ターゲットとなる顧客は何に価値を感じているか)
この外部分析に基づき、「今の市場ニーズに対応するのか、それとも次世代のニーズを先取りするのか」「国内で勝負するのか、国外に打って出るのか」といった大枠の方向性を見定めていきます。
4. ビジョンと戦略を紐づける具体的手法
4-1. 戦略マップの活用
ビジョンを具体的な戦略に落とし込むときに、「戦略マップ」を用いる企業も少なくありません。これは、ビジョン達成に必要な経営視点(財務・顧客・内部プロセス・学習と成長など)を整理し、そこに戦略目標(KPI)やアクションプランを関連づけて可視化したものです。
メリット:
部門ごとの活動がビジョンにどう繋がるのかが一目でわかる
「単に売上を上げよう」ではなく、「顧客満足度を上げる→リピート増加→売上向上」という“因果関係”が明確になる
4-2. 数値目標と期限を設定する
あまりに抽象的なままだと、組織の動きが散漫になりがちです。そこで、ビジョンから逆算して中期目標(3〜5年)、短期目標(1年)といった形で具体的な数値を設定します。
例:
3年後までに新規顧客売上比率を30%に引き上げる
1年後までにオンラインチャネルのリード獲得数を月間1,000件に到達させる
SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)な目標設定を心がける
この時、必ずトップダウンだけでなく、現場のキーマンからのフィードバックも得ることで「実現不可能な数値になっていないか」「本当に必要とされる目標か」を検証することが大切です。
5. 絵に描くだけで終わらせないための実行・検証フェーズ
5-1. 組織体制とリーダーシップ
いくら優れた戦略を描いても、実行フェーズが疎かになれば絵に描いた餅です。たとえば大規模な事業推進が必要な場合、新しいプロジェクトチームを社内に立ち上げるか、専門知識を持つ人材を外部から招聘するかなど、リーダーシップと組織構造の再編が求められることもあります。
トップのコミットメント: 経営トップが本気で旗を振らなければ組織全体のモチベーションは高まりにくい
権限移譲: 各部門の担当者が素早く意思決定できる体制づくりが必要
5-2. PDCAとOODAの使い分け
PDCA(Plan-Do-Check-Act): 比較的安定した事業領域や改善プロセスに適している
OODA(Observe-Orient-Decide-Act): 変化が激しい市場環境や新規事業で、迅速な意思決定が求められる状況に適する
戦略は策定して終わりではなく、実行後に必ず検証し、必要に応じて修正します。シリコンバレーのスタートアップなどは、仮説検証(アジャイル型開発など)を高速に繰り返すことで大きな成長を遂げているわけです。
6. 具体事例:戦略策定が成功したケース
ここではあえて汎用性の高い例ではなく、当社(ミックスナッツ社)がこれまで支援してきた中から、抽象化できる事例を簡単にご紹介しましょう。
事例:BtoB向けサービス企業の新規事業立ち上げ
まず経営陣と未来像(ビジョン)を再定義するワークショップを実施
既存サービスの強みと差別化ポイントを整理(内部分析)
海外展開を視野に、競合状況や規制、言語・商習慣の壁(CAGEの要素)を評価
「2年後までに○○市場に新規参入し、売上全体の20%を海外顧客から得る」といった具体的な目標を策定
各部署が短期・中期KPIを設定し、それを週次・月次でチェックする仕組みを構築
実際に新規顧客獲得ペースが想定より遅れた場合は、オンラインマーケティング施策を強化しながら柔軟に戦略を補正
このように、“ビジョン → 戦略 → 実行・検証”の流れを丁寧に踏んでいくことで、着実に成果を出すことができました。
7. まとめと次回予告
ビジョンとは企業の未来を示すコンパスであり、戦略はそこに到達するための地図です。ただし、どれほど魅力的なビジョンや戦略を描いても、実行力が伴わなければ成果には繋がりません。
自社の強み・弱み(内部分析)と市場環境(外部分析)を掛け合わせて、勝ち筋を見極める
ビジョンと戦略を紐づける際には、組織全体が同じゴールを共有できる「可視化」が大切
目標設定には“実現可能性”と“チャレンジ要素”を両立させ、具体的な数値・期限を設ける
戦略は“作る”だけで終わりではなく、“走りながら検証と修正”を繰り返すことで磨かれていく
次回は、戦略の重要な要素である「マーケティング」について深掘りする予定です。単なる広告や販促ではない、本質的なマーケティングとは何か。そしてそれが、どのように事業の成長や収益改善につながるのか──具体的なフレームワークや思考法も交えつつ、プロが実際に行っているアプローチをご紹介いたします。どうぞお楽しみに。
執筆後記
経営戦略というと、小難しいフレームワークの羅列だとイメージされる方も多いかもしれません。しかし、大切なのは「いかにシンプルに自社の方向性を描き、すばやく実行に移して修正できるか」という一点に尽きます。そのためにも、フレームワークや経営学の知見はあくまで“補助輪”として活用し、最終的には自社に最適化した方法を練り上げる姿勢が求められます。
ミックスナッツ社では、経営戦略の策定や実行支援、新規事業の立ち上げやファイナンス戦略など、幅広い領域で伴走型のサポートを行っています。ぜひ今後の連載記事を通じて、皆さまのヒントとなる情報をお届けできれば幸いです。
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